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骨免疫学寄付講座は・・・
骨と免疫系の相互作用と共通制御機構を扱う新規学際領域「骨免疫学」に特化した講座として、2016年5月に設立されました。骨代謝制御と免疫制御の両観点から、疾患克服に向けた病態誘導機構の解明及び創薬標的の同定に取り組み、関節リウマチなどの免疫疾患、骨粗鬆症などの運動器疾患に対する新しい疾患制御の開発を目指しています。

研究内容

身体を支え動かすのに必要な「骨」。
細菌やウイルスなど外来病原体から身体を守るために必要な「免疫系」。


これらは一見無関係のように思えますが、実は私達の身体の中で深く関わり合っていることがわかっています。例えば骨髄は、造血幹細胞や免疫系前駆細胞を維持し、必要に応じて末梢に動員させる一次リンパ組織として重要な免疫機能を果たします。さらに骨の細胞と免疫細胞は、サイトカインや受容体、細胞内シグナル伝達因子などの多くの制御分子を共有しているため、様々な局面で両者は相互作用し、ときには一方の異常が片方に波及することになります。慢性炎症など免疫系が異常に活性化した場合では、骨への影響が持続化し、不可逆的な骨障害に至ります。こうした骨と免疫系の相互作用や共通制御機構を扱う新規学際領域として「骨免疫学」は創成され、特に関節リウマチの病態研究を中心に発展してきました (Okamoto et al, Physiol Rev, 2017)。本寄付講座では、骨免疫学視点から様々な骨関節疾患、炎症疾患の病態形成機序を理解し、新規薬剤開発や革新的治療法の確立に結びつく基礎医学研究を進めています。

1. 破骨細胞分化とRANKLシグナル

骨の恒常性は、骨の古い組織が分解されて新しい組織に置き替えられること(骨リモデリング)により維持され、それは骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収とのバランスによって制御されています。このバランスの破綻は、関節リウマチ、閉経後骨粗鬆症、がん骨転移などの骨量減少性疾患や大理石骨病などを引き起こす原因となります。破骨細胞は単球/マクロファージ系前駆細胞由来の多核巨細胞で、酸やタンパク質分解酵素を分泌して、骨の無機質と有機質を分解します。その分化には、破骨細胞前駆細胞が骨芽細胞や骨細胞などの間葉系の支持細胞と接触し、RANKLと呼ばれるサイトカインからのシグナルを受け取ることが必要であることが分かっています。そのため破骨細胞分化におけるRANKLシグナルの解明は、破骨細胞が関わる様々な骨関節疾患に対する新規治療法の開発に繋がる重要な課題です (Tsukasaki et al, J Bone Miner Res, 2016)。現在、RANKLに対する抗体は骨粗鬆症や多発性骨髄腫およびがん骨転移による骨病変、さらに国内では関節リウマチの骨びらん抑制に対する治療薬として使用されています。一方、我々はこれまでRANKLシグナルに対する低分子阻害剤の有効性を、マウスの疾患モデルを用いて検証してきました (Guerrini et al, Immunity, 2015)。最近ではがん骨転移のマウスモデルに、RANKL低分子阻害剤を経口投与することで、転移進行と骨組織の腫瘍進展を著明に抑制できることを明らかにしました (Nakai, et al., Bone Res, 2019)。RANKLシグナル標的薬の開発は骨疾患領域のみならず、がん領域における新たな医療技術の創出にも繋がり大いに期待されます。


2. T細胞による骨代謝制御〜疾患における骨と免疫の相互作用〜

関節リウマチでは、自己反応性T細胞の活性化により、滑膜の局所炎症が誘導されます。その結果、滑膜線維芽細胞におけるRANKL発現が亢進し、そのため破骨細胞の異常な活性化により骨破壊が生じることが明らかにされています。このように関節リウマチはT細胞異常が骨代謝に影響及ぼす典型的な例であり、その病態研究は骨免疫学の発展の大きく貢献してきました。我々は他にも、歯周病におけるT細胞を介した歯槽骨破壊機構 (Tsukasaki et al, Nat Commun, 2018)や、骨損傷後のγδT細胞による骨再生誘導 (Ono et al, Nat Commun, 2016)など、様々な生理的・病理学的状況下において免疫細胞による骨代謝制御機構を明らかにしてきました。骨関節疾患や免疫疾患、造血疾患など、免疫系と骨の双方が絡む病態を理解するには、両者の複雑な相互関係を紐解くことが必要不可欠といえます。 また我々はこれまで関節リウマチの骨破壊に重要なT細胞サブセットとしてTh17細胞に焦点を当て、Th17細胞の分化や発生機序に関する研究を進めてきました (Okamoto, Nature, 2010; Komatsu, Nat Med, 2014)。最近我々は、アルギニンメチル化酵素PRMT5が末梢のT細胞およびiNKT細胞の恒常性維持に必須であることを見出しました。IL-2、IL-7、IL-15はT細胞やNKT細胞の維持に必須のサイトカインですが、いずれの受容体も共通受容体サブユニットγc鎖を有しており、Jak3の活性化を介して細胞内シグナル伝達を誘導します。PRMT5はRNAスプライシングの制御因子Smタンパク質をアルギニンメチル化修飾することで、γc鎖とJak3のpre-mRNAスプライングを制御していることがわかり、スプライシングを介した新たなγcファミリーサイトカインのシグナル制御機構であることを明らかにしています (Inoue et al., Nature Immunol. 2018)。


3. 骨髄における骨芽細胞による免疫制御

骨は、身体を支え運動を可能にするのみならず、細胞の生命維持に必要なミネラルを貯蓄し代謝を制御しています。さらに、骨髄には全ての免疫細胞の源となる造血幹細胞が存在しており、血球系細胞の分化を維持することで免疫反応にも影響を与えています。骨髄内の造血幹細胞の自己複製能や多分化能の維持には、造血幹細胞ニッチと呼ばれる特別な微小環境が必要です。造血幹細胞ニッチを構成する細胞としては、近年CAR細胞(CXCL12を発現する特殊な細網細胞)やレプチン受容体陽性細胞などが知られています。一方我々は、骨芽細胞は、骨髄におけるIL-7の主な産生源として機能し、骨髄の共通リンパ球前駆細胞の維持に必須であることを明らかにしました。さらに敗血症時ではG-CSFの作用により骨髄内の骨芽細胞が劇的に減少し、その結果骨髄の共通リンパ球前駆細胞が減少するため、全身のリンパ球数が低下しました。すなわち急性炎症後におこるリンパ球減少症が、骨髄の骨芽細胞障害に起因していることが明らかとなりました (Terashima et al., Immunity, 2016)。近年、骨芽細胞異常を発端とした白血病の発症に関する報告もなされています。骨は単に物理的な環境を提供しているだけでなく、造血細胞の恒常性を維持し、がん化を抑止するという機能的なサポートも行っていることが分かりつつあります。

メンバー

特任准教授:
岡本一男
Kazuo Okamoto

略歴:
2000年3月        京都大学 理学部 卒業
2002年3月        京都大学 大学院生命科学研究科 修士課程修了
2006年3月        京都大学 大学院生命科学研究科 博士課程修了
2006年4月        東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科
              分子情報伝達学 博士研究員
2007年4月−2010年3月  日本学術振興会 特別研究員 PD
2010年4月−2015年3月  科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 (ERATO型研究)
              高柳オステオネットワークプロジェクト グループリーダー
2010年8月–2012年4月  東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 分子情報伝達学 助教
2012年5月−2016年4月  東京大学 大学院医学系研究科 免疫学 助教
2016年5月−現在      東京大学 大学院医学系研究科 骨免疫学寄付講座 特任准教授

主な受賞歴:
2011年 三浦記念リウマチ学術研究賞 (公益財団法人 日本リウマチ財団)
2016年 日本免疫学会 研究奨励賞
2017年 日本骨代謝学会 研究奨励賞


特任助教:
寺島明日香
Asuka Terashima

略歴:
2004年3月        東京学芸大学 教育学部 卒業
2006年3月        東京学芸大学大学院 教育学研究科 修士課程修了
2009年3月        千葉大学大学院 医学薬学府 博士課程修了
2009年4月−2010年3月  東京学芸大学 教育学部 博士研究員
2010年4月−2011年3月  科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 (ERATO型研究)
              高柳オステオネットワークプロジェクト 研究員
2011年4月−2014年3月  日本学術振興会 特別研究員 SPD
2014年4月−2015年3月  科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 (ERATO型研究)
              高柳オステオネットワークプロジェクト 研究員
2015年4月−2016年4月  東京大学 大学院医学系研究科 免疫学 特任研究員
2016年5月−現在      東京大学 大学院医学系研究科 骨免疫学寄付講座 特任助教

主な受賞歴:
2017年 日本炎症・再生医学会 研究奨励賞
2018年 日本免疫学会 研究奨励賞

寄付社

2016年5月〜2019年4月

2019年5月〜
(五十音順)

協力講座

東京大学大学院医学系研究科 免疫学 (高柳広教授)

研究業績

原著論文

Asano T, Okamoto K*, Nakai Y, Tsutsumi M, Muro R, Suematsu A, Hashimoto K, Okamura T, Ehata S, Nitta T, Takayanagi H*. (*corresponding authors)
Soluble RANKL is physiologically dispensable but accelerates tumour metastasis to bone. Nat Metab. 1:868–875.(2019) [Online Published]

Hayashi M, Nakashima T, Yoshimura N, Okamoto K, Tanaka S, Takayanagi H.
Autoregulation of Osteocyte Sema3A Orchestrates Estrogen Action and Counteracts Bone Aging. Cell Metab. 29(3):627-637.(2019). [PubMed]

Nakai Y, Okamoto K*, Terashima A, Ehata S, Nishida J, Imamura T, Ono T, Takayanagi H*. (*corresponding authors)
Efficacy of an orally active small-molecule inhibitor of RANKL in bone metastasis. Bone Res, 7:1.(2019) [PubMed]

Inoue M, Okamoto K, Terashima A, Nitta T, Muro R, Negishi-Koga T, Kitamura T, Nakashima T, Takayanagi H.
Arginine methylation controls the strength of γc-family cytokine signaling in T cell maintenance. Nat Immunol, 19(11):1265-1276.(2018) [PubMed]

Tsukasaki M, Komatsu N, Nagashima K, Nitta T, Pluemsakunthai W, Shukunami C, Iwakura Y, Nakashima T, Okamoto K, Takayanagi H.
Host defense against oral microbiota by bone-damaging T cells. Nat Commun.9:701(2018) [PubMed]

Tsukasaki M, Hamada K, Okamoto K Nagashima K, Terashima A, Komatsu N, Win S, Okamura T, Nitta T, Yasuda H, Penninger JM, Takayanagi H.
LOX Fails to Substitute for RANKL in Osteoclastogenesis. J Bone Miner Res. 32(3):434-439. (2017) [PubMed]

Terashima A, Okamoto K, Nakashima T, Akira S, Ikuta K, Takayanagi H.
Sepsis-Induced Osteoblast Ablation Causes Immunodeficiency. Immunity.44(6):1434-43.(2016) [PubMed]


英文総説

Okamoto K, Takayanagi H.
Osteoimmunology. Cold Spring Harb Perspect Med, 9:1. (2018) ---Review [PubMed]

Okamoto K, Takayanagi H.
Osteoimmunology. Genetics of Bone Biology and Skeletal Disease, Second Edition, 261-282, 2017 (ACADEMIC PRESS/ ELSEVIER)

Okamoto K, Nakashima T, Shinohara M, Negishi-Koga T, Komatsu N, Terashima A, Sawa S, Nitta T, Takayanagi H.
Osteoimmunology: The Conceptual Framework Unifying the Immune and Skeletal Systems.Physiol Rev. 97(4):1295-1349. (2017) ---Review [PubMed]


日本語総説

岡本一男 「骨と免疫、がんにおける可溶型RANKL」
臨床リウマチ 31(4):336-342 (2019)

岡本一男、高柳広 「炎症疾患における骨の障害と修復機構」
別冊BIO Clinica 慢性炎症と疾患 『適応&修復のサイエンスと臨床応用の最前線』 第8巻1号 p55-60, 2019

寺島明日香、岡本一男、高柳広 「感染時の免疫応答における骨構成細胞の役割」 
医学のあゆみ 特集『自然免疫の最前線』 256(13):1142-1148 (2018)

岡本一男 「IL-17産生性T細胞による骨の制御」
日本臨床免疫学会会誌 40巻5号 p361-366, 2017

寺島明日香 「骨リモデリング制御と疾患」
CLINICAL CALCIUM. 27: 1759-1766, 2017

寺島明日香 「敗血症と免疫不全」
感染・炎症・免疫 第47巻 第4号、2017

寺島明日香、高柳 広 「骨芽細胞のIL-7と敗血症によるリンパ球減少」
医学のあゆみ、1089-1094、2017

岡本一男、高柳広 「Overview – その研究の新たな潮流」
THE BONE 特集 『骨免疫学の進歩が変える骨関節疾患アプローチ』 Vol.31 No.2/ 2017年6月号

寺島明日香、高柳広 「Overview: オステオネットワークと臨床応用」
単行本『骨・臓器ネットワークとオステオサイト』(株式会社 メディカルレビュー社) 96-103、2016

寺島明日香、高柳 広 「オステオネットワークについて」
皮膚病診療 2016年7月号(株式会社 協和企画)662-669、2016

岡本一男、Matteo M. Guerrini、高柳広 「多発性硬化症におけるRANKLの役割」
月刊「細胞」分子細胞生物学講座コーナー 6月号、2016

岡本一男、Matteo M. Guerrini、高柳広 「EAEの中枢神経炎症におけるRANKLとT細胞の役割」
臨床免疫・アレルギー科『特集II.臓器特異的自己免疫疾患研究の進歩』9月号, 66(3), 2016

岡本一男、高柳広 「骨免疫学」 
研修ノートシリーズ『膠原病・リウマチ・アレルギー研修ノート』(2016)


岡本特任准教授の業績一覧はこちら(過去の業績を含む)

連絡先

〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1 医学部教育研究棟10階
東京大学大学院医学系研究科 骨免疫学寄付講座
Tel: 03-5841-3378
E-mail: oka-im[@]m.u-tokyo.ac.jp